井戸川射子「ここはとても速い川」
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「この世の喜びよ」で今年芥川賞を受賞した井戸川射子。
2021年に発売された前作であり初めての小説集が「ここはとても速い川」。
高校で国語の教師をしながら詩作をし中原中也賞を受賞して詩人として注目されていたらしい。
表題作は児童養護施設の小学五年生の目を通した世界。祖母、友だち、先生、町、そして川。見たもの感じたことを素直に書きつけていく。みずみずしく、そして苦い。
シンプルな事柄の積み重ねから詩情が漂う。
初期のカルヴィーノのようなイタリアのネオリアリズモみたいな文体だ。
これは実際に読まないと何が速いのか体験ができない。
もう一編の「膨張」が小説第1作。20代女性の塾講師で住むところを毎日変えるアドレスホッパーが主人公。
パートナーや周囲の男性の振る舞い、リフォームすることになった実家、ふと知り合った母子との日々が描かれる。あらすじだけでも主人公の立場が不安定そうだ。パートナーとの関係も世間とは違っている。
こちらもふと詩情にあふれた描写が入る。
どちらも主人公の視点から語られて説明的な文章がないため、普段エンタメ系の小説しか読んでいないとわかりにくいかもしれない。
意識の流れ的な書き方で最近の日本では珍しいかもしれない。
薄い本だからと手に取ったけど読むのに時間がかかったし、時間をかけるべき作品。
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