安田峰俊『北関東「移民」アンダーグラウンド』
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ときおり新聞沙汰になる外国人技能実習生。
技能実習とは名ばかりで日本人が嫌がるようなきつい仕事を低賃金でやらせるのが実情で海外からは強制労働との指摘もある。
日本人から実習生へのいじめや性被害が問題になったこともあるし雷雨の中農作業を行なっていて雷に撃たれて死亡した事件もあった。
そういう環境なので実習先から逃げ出す人も多い。
国別で実習生が1番多いのは昔は中国だったけどこの10年でベトナムに変わった。中国の給与が上がったため日本に来るうまみがなくなったからだ。
ベトナムの実習生は2021年で20万人もいる。当然逃亡者も多く、職場から逃げ出して不法滞在、不法就労をしている人たちはベトナム人の中で「ボドイ」と呼ばれている。
そのボドイの現状を探ったルポが『北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』。
著者は安田峰俊。主に中国にまつわるルポライターだがボドイの存在を知り若いベトナム人と組んでボドイを追う。
無免許運転で日本人を轢き殺してしまった女性、ウーバー配達員、「群馬の兄貴」、風俗店勤務、ボドイ同士の殺人事件、列車衝突事故、桃窃盗事件など、ニュースで見かけた事件も本人たちに迫って詳細を聞き出している。「群馬の兄貴」や西成など著者によるルポも読んだことがあるが本書のため書き直されている。
2021年時点で日本にベトナム人は45万人いるそう。なので実習先から逃げてもベトナム人コミュニティの中で生活できるネットワークが確立されている。
外国人が怖いとか危ないとかは思わないけど、ナンバーを付け替えた中古車が流通していて保険にも入らず無免許で運転してるボドイがいるのは単純に危険だと思った。まあ日本人も運転マナーは悪くなってるし高齢者の割合も増えているから車自体が危険なんだけど。
著者はネットでの文章術の本も出していて信条は「バズる文章」。PV数を最大にするための書き方だ。だから記事もよく見かける。本文では実習生の現状を憂いたり心配したりしているのだけど恐らく書店で目立つために表紙は派手に、帯には扇状的な文が記されている。
ボドイとベトナム人コミュニティについて知るには現状1番役に立つ本だ。
ただこれも実習先を離れたから話しを聞くことができたとも言える。地方の小中企業で低賃金で外出も制限され日々過酷な仕事を黙々とこなしている実習生の声は聞くことができない。小企業が日本の最低賃金を下回る賃金で外国人を働かせて日本の経済が成り立っているのは健全ではない。これから技能実習生の制度が見直されたら人件費が上がって物価も上がりそう。賃金負担ができなかったり、受け入れができず人手不足になったりで破綻する企業も増えるんじゃないだろうか。
いろいろ考えさせられる。
スズキナオ『「それから」の大阪』にも此花区にベトナム食材店が増えているという記事があった。
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