樋口毅宏「中野正彦の昭和九十二年」読了
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読了。樋口毅宏の新作「中野正彦の昭和九十二年」。
水道橋博士のメルマガが終了して連載中断、大幅加筆のうえイーストプレスから発売される予定が発売日前日に出版プロセスに問題があったと回収が決まった小説。出荷はされていたのでネット通販で予約してた人には届いたし発売日には普通の店頭でも販売されていた。
安倍晋三を慕う主人公が書いている日記という体裁を取っていて過去のニュースやツイートが数多く引用されている。引用が無許可だったことと、社会的弱者や韓国、中国への罵詈雑言が書かれているのが出版社内で問題になったらしい。
実際に読んでみると主人公は条件反射的に悪態をつくだけであまり考えてないように思われるし、無理矢理なこじつけで悪意を述べていくのがむしろネトウヨ的な人たちを馬鹿にしてるように読める。
普通に読めばネトウヨ的な視点に立って書くことでその批判をしている。「統一教会の教条と自民党の基本政策が同じ」という文もあった。ただ著者が性的なことなど露悪的な表現を好む人だから合わない人もいるのはわかる。
物語は昭和92年(2017年)沖縄基地反対運動の活動家を暗殺するところから始まり、次の作戦に備える主人公の日々が綴られる。モリカケ問題や議員オリンピック招致、選挙や議員・大臣の不適切発言など実際のニュースに加え実在の人物がそのままで文中に出てくる。ただし日記だけど実際に起こったことだけじゃなく主人公の妄想や願望なども含まれているのは示唆されている。
トランプ初来日の辺りから架空の人名が出てくるなと思ったら現実を離れて物語が展開する。帯にある「安倍晋三元首相暗殺を予言した小説」はまあその通り。引きこもりや三島由紀夫に対する軽蔑と共感が内的な要因か。フォークナー「8月の光」やアーヴィン・ウェルシュ「フィルス」に似ている。
架空のエピソードでタモリや大江千里の名を出す必要があるのかと思うがそれがこの著者の作風だ。出版を停止する必要はなかったと思うな。そのうち他の出版社から再販されそうだ。
物語は20年後昭和112年(2037年)で終わっている。
最終ページにフィクションであることや引用元が記されていて最後に「続編『小林大介の昭和114年』に続きます。」とある。このことは読んだ人の感想で見かけたことがないな。ここまで読む人も少ないだろうから書いてしまうと自民党橋下政権下での日中戦争を書く予定だと思われる。
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