ブコウスキー 「郵便局」新訳
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酔いどれ無頼派詩人にして作家のブコウスキー、デビュー長編小説「郵便局」の新訳が出た。
発売元は光文社古典新訳文庫。ブコウスキーが古典?と思ったけど1971年発表だからもう50年前だ。
ブコウスキーは長らく日本では無名だったんだけど90年代初めに短編が「つめたく冷えた月」として映画化された。土曜深夜のNHKで放送されていた新作映画紹介の番組で取り上げられてたのを覚えている。
それから名前が広まり1994年に小説「町で1番の美女」が翻訳された頃に亡くなってしまい、逆に話題になった。雑誌ダヴィンチが創刊された頃。
町の人々を簡潔な文章でリアルに書く、というとヘミングウェイみたいだけどブコウスキーは表向きロマンチックさや高尚さが出ないように醜い現実や人間関係を書いている。酒とタバコが離せないのもヘミングウェイと共通している。ブコウスキーにとってヘミングウェイは反面教師だったのかも。
「郵便局」は初めての長編小説でほぼ実体験を元にしてる。若い頃アメリカを放浪し30を過ぎて郵便配達の代用職員になる。正規の職員は雨が降ったり暑かったりすると休むので代用職員の出番となり当然厳しい状況で配達することになる。
2年ほどで辞めてしまい競馬で生計を立てたりする中、奥さんから世間体が悪いといわれ今度は職員として再度郵便局に勤める。
その後11年間仕分け作業を続ける日々が書かれるが酔っ払らったまま出勤するわ無断欠勤するわで普通の小説とは違う。アメリカでは働けば夢が叶うという考えの小説が多いなか、アメリカンドリームと無縁の労働を書いたのはブコウスキーが初めてじゃないだろうか。
ほぼ自伝だけどブコウスキー本人は仕分け係の仕事を始めてから詩を書き始めて詩集も出している。その辺りのことは触れられていない。
この作品は「ポスト・オフィス」という題名で90年代にも翻訳されている。こちらはサバサバした翻訳だった。古本が高騰していたから新訳が出たのかもしれない。
旧訳も新訳も柴田元幸の生徒が訳してる。
2冊の帯のコピーの違いも面白い。旧訳の「誰もがアウトロー。」は幻冬社アウトロー文庫の特集のコピー。この本のコピーは「そんな仕事、辞めたらどうだ?」
新訳は「もっと気儘に生きてもいいじゃないか」
旧訳が出たのはバブル崩壊後とはいえまだ年功序列が守られて転職が良く思われていなかった時代。
かたや今は業務委託でUberやAmazonの配達をするのも本人の自由意志みたいに思われている。20年で変わるもんだなあ。
でもブコウスキーは詩も書いていたし競馬も自分の考えで狙って買ってたしで才能があるからこそ日々の生活として郵便局で働けていたんだと思う。
無茶苦茶な話しだけど最後は希望の残る結末になっている。
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