高橋ユキ「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」
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裁判傍聴を続けて記事を書いているフリーライター、高橋ユキの最新刊。
拘束された後に逃亡した犯罪者の手口を辿る事件簿。
大きく扱われるのは3名。
まずは開放的処遇施設と呼ばれる松山刑務所大井造船作業場に送られた模範囚。作業場の人間関係に悩み逃走、向島から尾道まで泳いで23日後、広島市内で逮捕された件。
2件目は大阪富田林署で勾留中に逃走し、自転車で日本一周をしてるように装い49日後に山口の周南市で逮捕された件。これは途中諏訪大島に立ち寄っているんだけど先日読んだ中村明珍の「ダンス・イン・ザ・ファーム」でも諏訪大島滞在中の様子が書いてあった。
3人目は昭和の時代に4度脱獄を成功させた白鳥由栄。ゴールデンカムイの白石のモデルということでも話題になった。この人だけ本名なことも含めちょっと毛色が違う。
逃走の手段や方法はそれぞれだけど、理由としては勾留中の待遇や人間関係の不満が元になっているのが共通している。そもそも罪を犯したことが確定されてるのに自分の置かれた処遇を恨んで逃走してるのが自分を正当化してるように感じた。
そして脱獄するほど頭がいいので警察に声をかけられても上手くかわして逃げのびたりしている。これは個人と集団にいることでは危機への意識が違うということにもつながるかも。
最後に総括として日本は罪が確定する前の勾留が厳しいのと保釈の後の追跡体制が甘いことについて現状の考察がある。
こういう人もいますよともっと実例を挙げて読み物にするのもありかと思うけど著者が他のライターと一線を画したいのか、裁判傍聴もすれば本人と文通して本音を聞き出したり手間のかかけて深掘りしている。
普通の事件簿とは違う角度から犯罪者を見つめていて見方が面白い。
いつものことながらルポライターの仕事ぶりには感心する。
取材の過程で食べられなかった鳩子天ぷらについて本文でも写真キャプションでも触れられていて取材の息抜きへの熱意も感じた。
著者はハッシュタグ #ロイヤルホストを守る市民の会 も広めている。
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