AI監獄ウイグル
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今年読んだ本で1番面白い!
近年新疆ウイグルでの民族浄化や強制労働のニュースは聞いていたがその背後にはAIによるデジタル監視体制の徹底があった。秘密主義の中国の真実を探るために168名にインタビューしたルポ。
本書ではトルコの大学に留学していたメイセムという女性のインタビューを中心に話が進んでいく。ウイグルでの勾留から中国を脱出するまでの体験談が壮絶。カメラを使った監視が厳しくなっていく過程もわかる。
こういうルポは中だるみしたりするけどこの本は知らなかった情報が多くて最後まで内容が濃い。
冒頭、著者が新疆ウイグルへの取材を検討している時期に中国の同盟国のカンボジアが著者を名指しでスパイとして新疆ウイグル行ったというネット記事が出されたという。その情報を手に入れるのもだけど先に手を打ってフェイクニュースを流す情報戦もすごい。
中国の監視システムやウイグル人迫害の実態を知りたい人にはおすすめ。
2021年6月に原書が出て2022年1月に邦訳が出るスピード感も素晴らしい。
以下は全体の要約と個人の感想。
シルクロードの中国における最西端にあたる新疆ウイグル自治区。テュルク系のウイグル人が多い地域で迫害が起きるきっかけになったのが2001年の911だ。
アメリカがイスラム教徒をテロリスト扱いしたのに習い、中国も過激思想、テロリズム、分離主義の廃絶という体でイスラム教徒の多いウイグル人を迫害していく。
これが逆効果となり一部のウイグル人がアフガニスタンやシリアに渡りISSの訓練を受けて2013年頃にウイグルでテロ活動を行う。
対抗策として2014年以降監視カメラが増え、どこへ行くにもIDカードが必要な監視社会となっていく。行動記録が取られ信用度が数値化される。海外への渡航経験があると自由主義的な考えの持ち主だとかテロリストと出会う可能性があるということで信用度が下がる。漢族の覇権を広げたい共産党の定めた基準なのだ。そのため住民は理不尽な理由で警察に呼ばれて尋問され、信用度が低くなると特殊訓練施設や再教育センターへ送られる。これは実質的な強制収容所行きだ。この収容所へは人口1100万のウイグルで300万人が送られたという。
この収容所から中国各地の工場に派遣されていたのが強制労働問題。なので欧米や日本の企業は実情を知らずに強制労働に加担していたことになる。その事実が暴露された時に欧米の企業はすぐに調査や強制労働者の受け入れ拒否をしたけど一部そのままにして問題になったところもある。日本の某ファストファッション企業みたいに。この本を読んで経緯を理解できた。
監視システム自体も元を辿ればマイクロソフトが中国に設立したマイクロソフトリサーチアジアが起点になっている。バイドゥ、アリババ、テンセント、レノボ、ファーウェイの経営幹部はそこの出身だ。
2010年代になって米中間でお互いバックドアを仕込んで機密情報を盗んでいると敵対するようになり中国は内製化を始めた。今ではスカイネットという名前でウイグル以外の中国全土でネットワーク化が進んでいるらしい。
でこの監視システム、アフリカや中東のイスラム圏の国で導入が増えている。というのも911以降アメリカからの支援が減り、結果的に中国に依存するようになった国が多いからだ。国内のイスラム教徒を迫害している中国がイスラム圏の国と密接に関係しているというダブルスタンダードが常態化している。なんて皮肉なんだろう。
ウイグルでは各家庭に監視カメラが付けられていたのだけど今では監視員として役人が一緒に住むというところまで状況が悪化しているそう。父親が勾留されている場合は母親はその役人と同じベッドで寝ることを義務付けられている。
さらに女性は強制的に経口避妊薬を飲まされひどいと不妊手術までされている。ウイグル人の子供が生まれなくするためだ。こんなことまでしているとは知らなかった。
欧米は個人主義が強く監視には抗議する人が多い。日本は政府や官僚がネポティズムどっぷりなためちゃんと動くシステムを導入するのが難しい。その点中国は独裁体制なのでシステムを徹底できたのだろう。まあ中国の幹部も贈賄などの名目で粛正されたりしているから実態としては不正が蔓延っていて政権闘争で負けた人は暴露されているのだろう。
今ロシアのウクライナ侵攻が問題になっているけど、ロシアが意外と欧米の金融とITに依存していたのがわかった。中国は金融もITも自国で賄えるようにしていたので何かあった時にロシアと比べれば悪影響は少ない。
ファーウェイ問題を機に欧米と中国側では圧倒的に中国側のシステムを使っている人が多い。
日本にいるとまだまだ欧米の方が力がありそうに思えるけどそんなことはないんだなとこの本を読んでわかった。
本当にすごい情報量。
ウイグル潜入のところは石丸元章の「平壌ハイ」を連想したりした。
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