金原ひとみ「アンソーシャル ディスタンス」
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金原ひとみの最新刊「アンソーシャル ディスタンス」。
久しぶりに小説らしい小説を読んだ。
2019年1月から2021年1月までに発表された5作が収録されている。
恋愛、不倫、夫婦の倦怠感など2人の関係性をめぐる作品でまとめられている。そのためコロナのパンデミック以降の2作にはコロナに対する温度感の違いもモチーフとなっている。
今作はタイトルがすごい。
「ストロングゼロ」「デバッガー」「コンスキエンティア」「アンソーシャル ディスタンス」「テクノブレイク」。
中では冒頭の「ストロングゼロ」がこの短編集の方向を定めた濃密さがあった。
仕事のできる30代女性が鬱に陥った恋人の対応に悩みながら不倫を始めてストロングゼロが手放せなくなっていく。朝から飲むどころじゃなく仕事の合間、更にはカップに入れ替えて仕事中にも飲むほどエスカレートしていく。
思えば酒に溺れることは男女で非対称性が高い。男性、特に体育会系とか作家ではより量を飲める方が尊敬されるし、酒で失敗したエピソードも笑っておしまい、下手すると褒められたりステータスになる。
かたや女性は酔い潰れたり痴態を晒そうものなら怒られたり非難される。
男より仕事ができる女性が、男性のようにストレスから逃れて酒に走っているのに男性から女性に対する酒への理解がないことで酒に溺れていくような泥沼感がある。
漫画では西原理恵子、伊藤理佐、二ノ宮知子などが泥酔エピソードをギャグ漫画として笑えるように描いている。小説で酒に溺れていく女性を真摯に描いていくのは珍しいし、それだけ社会が泥酔する女性に厳しかったり許さないという圧があるということだろう。
他の作品でも頭の良い女性が幼かったり頭が固かったりする男性を好きであることから生じる悩みが描かれ、フェミニズムという言葉は出さずに今の時代の空気を掴んでいる。比喩もファンタジーに逃げず今の言葉で的確。
細部にこだわっているけど読みにくくはないのでパートナーとの関係に悩んでる人は読んでみるといいんじゃないだろうか。
表紙の写真は映画監督のデビッド・リンチ。
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